ちょっと前に話題になっていた「チ。ー地球の運動についてー」。つい先日視聴。
史実からエンタメとして必要な部分を抽出して再構築しているという印象。
もちろん、単品でも面白い作品ではあると思うけれども、半年くらい前に読んでいた「父が子に語る科学の話 親子の対話から生まれた感動の科学入門」とシナジー効果があるようにも思えたので、合わせて感想を書いてみます。
"チ。ー地球の運動についてー"のざっくり感想
地動説を題材に、史実を基にした「中世だけどSFファンタジー」。地球の中世ヨーロッパによく似た世界を舞台に、宗教的に禁止されていた地動説に命をかけた人々の物語。アニメのキービジュアルみたいなのとかだと、一人の主人公がいるように見えるけど、地動説に命をかけた「人々」の物語。
あくまでフィクションだし、現実の地球ではない(最後だけは現実の地球かもしれないけど)世界が舞台だけど、地球の史実をベースにしてエンタメに昇華した作品。
地動説のような宗教に反した考えが異端とされてた…みたいな点だけでなく、楕円軌道の発想とか、信仰に反した思想でも神を信じるが故みたいな側面も、実際の地球の歴史をベースにしていると節々感じる。
歴史(高校くらいの世界史)を学ぶだけだと「コペルニクスが地動説を提唱しました+α」で終わってしまうところを、その背景知識を以てエンタメにしている…すごい。
"父が子に語る科学の話 親子の対話から生まれた感動の科学入門"
前近代~近代に至るまでの(時々古典も交えながら)科学の宗教的な側面含めた発展の歴史を説明しつつ、科学の考え方を滔々と語る本。
ただ、タイトルから子供にも向けた本かと思ったけど、違う。
ある程度の知識を必要とするし、文章の流れとして浮いてしまってる部分(内容を理解するのにはあまり必要は無い補足が、あたかも一部かのように自然な流れで隙間に入り込んでいる感じ)も散見される。子供が読むにはハードルが高い。
著者の息子との対話をベースにしているのだとは思うけど、あとがきにあるように原著者の息子さんが特殊な子だったため、決して一般的に子供に向けた話ではないのだ。
そして、あとがきで訳者が「進路を決める若者に読んで欲しい」とあったが(あった気がするが)、内容はそもそも科学に興味が無いと、とっつきにくい内容だと思う。
あくまで「対話」という形式をとり、とっつきやすい"文体"で科学の歴史、思考の変遷に触れる本。僕はそういうのに興味あるたちなので、気軽に楽しく読めた。一方で、文体がとっつきやすいのであって、”読み物”として整理された内容かというと微妙なので、誰にでもというタイプではない。
2つのシナジー効果
もちろん、「チ。」はフィクションでありエンタメ。なので、(ほとんどが)実際の人物ではないし、もちろん歴史とは違う部分も多いし、実際の科学史の発展に寄与した議論の位置づけ等もすっかり薄くなっているし、"継承"という側面も心意気のようなもの中心になっている。しかし、そこはエンタメにするために省き抽出したところだろう。これは、エンタメ漫画であり、歴史書でも歴史漫画でもない。科学的思想を啓蒙するものでもないんだ。
ただ、史実をベースにしているのは節々に感じられるので、背景知識をもっておくと物語に奥行きを感じられるようになる気がする。その背景知識の導入として「父が子に語る科学の話 親子の対話から生まれた感動の科学入門」(特に前半)は、良いシナジー効果を持っていると思う。前述した通り、整理された読み物では無いものの、とっつきやすく「科学の宗教的な側面含めた発展、考え方」に触れられるうえ、地動説云々に関わる話題も多い。ピンポイント・・・とまではいわないけれど、良い感じに交わる部分がある。
さいごに
「チ。」は科学的な背景を知っていなくても楽しめると思うけど、地動説あたりの科学史を少し知ったうえで「チ。」を見てみると、面白さの奥行きが増す気がする。「父が子に語る科学の話 親子の対話から生まれた感動の科学入門」でなくても、何かしら知識を得たうえで見てみるのもお勧め。